ふりカエル「サービスの6段階」
オタマジャクシがカエルになって
はじめて陸にあがることを「上陸」という。
先日、友人の子がついに上陸したというから
エンマコオロギ料理専門店「コロコロギー」で
祝いをしてやった。
「創業30年の老舗だから、
問題ないだろう…」
と思って、その店を使ったのだが、
期待はみごとに裏切られた。
店内は倉庫のように雑然とし、
メイン食材である「コオロギ」が
店内を騒がしく走り回っているではないか!
私たちはカエルである。
動くものには、とりあえず反応する。
自分の身体よりも小さい物体なら、
舌をうまく使い、胃袋に放り込む習性がある。
「カエルの習性」という理由だけで
調理されていない食材を食べるわけには
いかない。
店内では本当にストレスを感じた。
私は、創業当時の同店を覚えている。
この30年は、サービス劣化の歴史といえる。
サービスにはざっと、6つ時期・段階がある。
- 不快にするサービス
- 不満を残すサービス
- 満足を与えるサービス
- 快適にさせるサービス
- 感動を与えるサービス
- 無償のサービス
1.不快にするサービス
現在、エンマコオロギ料理専門店「コロコロギー」は
一番最低のランクに位置している。
このランクの特徴は次のとおりだ。
- 店内は倉庫のように雑然としている
- きちんと接客する気なし
- 店員同士は、私語に夢中
- 店員に声をかけると私語が中断されてしまうので、不快な顔をする
- 万引きや迷惑客の見張りをするだけのイメージ
虫の後ろ足は、飲み込んだ後、
胃袋を傷つけることがある。
店員に「コオロギの後ろ足は除いてほしい」と
頼んだが、あからさまに面倒そうな対応をされた。
店員には、
「より良いサービスを客に提供する気持ち」が
一切ないのだ。
2.不満を残すサービス
5年くらい前に同店を利用したが、
サービスのレベルはこのランクだったように思う。
- 客にサービスを提供する気はある
- 店長は店員にやさしい印象
- 店員の気分で対応にムラがある
- 店員が不機嫌なときは、きびきび動かない。接客態度はギスギスしている
今年は、おせち料理を作るのが面倒だからと
同店を利用したが、絶命したコオロギが
テーブルに並んだことには驚いた。
カエルは「生きたもの」しか食べない。
店員は客である、私たちカエルの立場を
その日は全く考慮できなかったのだ。
「ピクピク…」でもよいから、コオロギには
動いていてもらいたかった!
忙しい日だったから、というのが店側の
理由かもしれないが、店員の気分でサービスに
ムラが出たのは明らかだった。
満足を与えるサービス
10年前、我が子の「上陸祝い」で同店を
利用したときはこのランクだった。
- 店員は客の立場にたって対応する必要性と意義を理解しているが、「義務」ととらえている
- 「義務」ととらえているため、取って付けたようなサービスで、平均点以上にならない
- マニュアルどおりにできても、心が通っていないサービス
強烈なショックを受けたポイントは、
創業当時と違って、「客は赤の他人」というのが
ビシビシ伝わってきたことだ。
相変わらず、「エンマコオロギ」は
おいしかったので満足はできた。
快適にさせるサービス
このランクの特徴は次のとおりだ。
- 客に対し、心を込めた対応を行う
- 一人ひとりの状態、その日の状況をみながら、心を込めた声かけがある
「おはようございます」
「いらっしゃいませ」
「行ってらっしゃいませ」
「今日は雨で大変ですね」
など、シンプルな声かけだが、
相手の状況・立場を考えて、
プラスワンのサービスが行えている。
なじみ客が増える段階だ。
カエルの種類にもよるが、
雨が降りそうな日には、
田んぼの畔で鳴きまくって
「お知らせ」業務で忙しくなる
カエルもいる。
「今日は雨で大変ですね」
なにげない声かけかもしれないが、
私たちカエルにとっては、
うれしい「ねぎらいの言葉」なのだ。
感動を与えるサービス
私たちに待望の子ができ、
親戚が同店で祝賀会を開いてくれたことがある。
このランクの特徴は次のとおりだ。
- 一人ひとりの客のニーズに合わせ、オンリー・ワンのサービスを提供する
- 客自身が気付いていなかったニーズを引き出し、満たされたようにする
- 客がこれまで気づかなかったニーズが満たされ、新しい幸せに出会えるようにする
ご存じのとおり、
カエルの子は、オタマジャクシだ。
幼子と外出する場合は、
持ち運びケースに
新鮮な池の水をたっぷりと入れて
移動しなくてはならない。
店内にケースを持ち込む際、
重たそうに運ぶ、私たちを見るやいなや
「いらっしゃいませ!」という声かけ
とともに、入店を支援してくれたのだ。
あの時は、本当にありがたい気持ちで
いっぱいだった。
無償のサービス
最上のランクのサービスの特徴は次のとおりだ。
- 客からもらった代金以上の価値を提供する
- 店員は、感動を与えるサービスの最大化をめざす
- 店員は「赤の他人」である客のことを好きになり、好きな相手に喜んでもらうために最善を尽くす
- 心を込めたワン・トゥー・ワンのサービスを意識しながら実行できる
創業当初、このレストランの親会社は
カエル保育園も経営していた。
そのため、オタマジャクシとともに
来店する親ガエルへの配慮は格別だった。
幼子を入れたケースの水が
濁っていれば、水換えを提案してくれた。
「元気なカエルになりますように、
栄養満点パウダーをどうぞ!」
といって、コオロギを粉状にした、
特別なパウダーを幼子たちに
無償で与えてくれたりもした。
「感動」以上のサービスを受けると、
お金を払った上でもなお、
店員に感謝しさえする。
サービスを受けたことが
快感体験になったからだ。
まとめ「サービスの極意」
カエル世界に限らず、
常に「価格」以上の「価値」を提供することが、
サービスの極意だ。要点は次のとおり。
価値 < 価格
客を不快・不満を残すサービス。
「二度と行きたくない」という気持ちまで
悪化する可能性あり
価値 = 価格
客に満足を与える平均点なサービス。
客はまだ「赤の他人」の段階。
価値 > 価格
客を快適にするサービス。
客は代金以上の価値を無料で受ける。
客は売り手に親しみを感じるようになる。
やや深い付き合いが始まる。
価値 >> 価格
客に感動を与えるサービス。
客が無料で手に入れる価値が極めて大きい。
客は売り手に心を開くだけでなく、
まるで友達のように気を許す。
売り手が喜びに満ちた対応を
することによって、
無償のサービスに変わる。
蛇足になるが、広い大地を感じさせる、
アイルランドの民謡に
『ザ・レベルプレーン』という曲がある。
自然は、私たちに無償のサービスを
与えてくれていることに気づく。